69話

悠久ノ風 第69話

69話 


「漆黒よ」

瞬間、漆黒が吹き荒れる。

漆黒の風が魔神の紅光を無に還した。

「馬鹿な……」

漆黒の風に、魔神は戦慄する。

先ほどの草薙悠弥を上回る戦闘力。

「この姿になるのは久し振りだな」

ガルディゲンの魔族――ケグネスを倒した時のような不完全な半分以下の顕現ではない。

「八割以上、か」

創世神器の力が80%以上の久世零生を顕現させた。

「馬鹿な、今の貴様にそんな力は」

久世零生――虚神が最も力を発揮した時は知っている。
大戦時代、日本の首都を守るリュシオンのセラフを討滅した伝説。
戦の魔神を討滅した伝説
死の邪竜を討滅した伝説。

滅びの伝説は破格。

(その80%以上……だと!?)

これ以上時間をかけるわけにはいかない。

「今の姿でいれるのは精々一分だ」

「!!」

「――つまり十分って事だ」

「なめるなよニホンジンンンンン!!」

白熱する思考。
魔神の紅光が増大する。

「――死ねえええぇぇぇ」

放たれる極大の破壊光。
その魔の神威たるやさきほどの比ではない。

だが――

「――国敵討滅」

相手が悪すぎた。

「――神風無道」
それは最強にして最凶。

あり得べからず漆黒の光。

「俺に想いをたくした者達よ。
英雄であろうとした只の日本人達よ。
志半ばで倒れようと、為せなくても構わない。
俺とお前は互いに只の日本人。
俺の戦いはお前の戦い。
俺が人を守ればお前も人を守った事になる。

お前達の想いこの一撃で応える」

紡がれる箴言は暴虐無道。
そして何よりも優しい。

「俺に想いを託した者達よ。
只の日本人達よ。
俺の活躍はお前のもの。
自分は只の日本人。
お前も只の日本人。
日本人たる俺の活躍は日本人たるお前の活躍」

破綻?
矛盾?
知らんよそんなの鬱陶しい。
俺の理がそうなってるのだからそうなのだ。誰にも文句はいわせない。
久世零生――虚神の最凶が天井知らずに上昇していく。

「この――人でなしがああああぁぁぁ!!」

魔神の凄絶な雄叫びをあげる。
満天を彩る神法陣が明滅する。

「国敵討滅」

――我は漆黒。
――其は国敵。
――討ちてし止まぬ。
――滅びの風。

――我は永遠。
――我は終焉。
――我は死。
――我は無。

「――神風無道」

――滅びろ国敵。

「無絶――神薙」

一閃。
神代の剣が神世を断つ。
草薙の剣が魔神を滅ぼす。

「ガッアアアアァァァァァァァ!!」

終滅する魔神。

絶対の滅びを前に、魔神は断末の叫びをあげる。

「虚神虚神うつろかみいいいいぃぃぃぃ!!」

あり得ないあり得ないあり得ない。

「貴様きさまきさまぁぁぁ、やはり……」

――神。

虚空に吐き出された言葉。

「――いいや」

久世零生は応える。

「――只の日本人だ」

風が吹く。
漆黒が――滅びの風が魔神を滅ぼした。