35話

悠久ノ風 第35話

35話 


――さぁ、戦争をはじめよう。

――リュシオン

神の――光があった
光は危険な
希望を灰と化す裁きの光だ。

絶望の波濤が広がる。

桁違いの力、桁違いの絶望。

絶望が――くる。

「――」

朽ちた奇跡――第四創世神器を前に――
草薙が手を掲げた。

時が止まる。

だが――それを打ち破るものがあった。

――光あれ

「っ!?」

ドクン、と心臓が鳴った。

「なっ!?」

草薙悠弥から漏れる驚愕の気息。

動く動く世界が動く。

ドクンドクンと命が刻む。

――カツン

世界が動く音。
それは決壊の音だった。

平和が決壊するような
地獄の歯車が回りだすような
致命的な何かを思わせる音だった。

「!?」

瞬間、力の波動が膨れ上がる。
A級、AA級、AAA級。
それすらも超えた力の発現だった。
計測不能の神威が膨れあがる。

瞬間、箴言が響いた。

――光あれ

世界が反転した。

白い白い、絶白の空間。

――ドクン

草薙の心臓が鳴った。
ドクンドクンドクンドクンドクン。

そして――

「――光あれ」

光が立っている。

「――さすがだね」

声が響く。

「君の決意は尊い」

箴言は草薙をとらえて離さない。

「日本の神異を消失させる。
君の狙いはそれだった」

草薙悠弥は光の者をみた。

「ガルディゲンやリュシオンが日本を狙う根本を失くす事、それが
今君がやろうとしていたことだ」

――日本を攻撃する理由を滅ぼす。
それだけでなく――

「日本を守るために、己の全てを消失させる」

光は語る。

「草薙悠弥、君のやろうとしている事だ」

光は語る

「――君は変わらない」

光は語る。

どんな狂人よりも狂っている。
どんな聖人よりも壊れている。
そして――

――日本を想ってる。

風守が守ってきた創世神器。
虚神を信仰するもの。
君に残ったもの。

それを破壊してまで」

――全てを犠牲にして、日本を守る。

祈りに答え国敵を討つ

「矛盾だね、虚神
この日本の神観とは異なる在り方。
日本の美徳と外れた存在だ」

光は語る。

「君はこの国を守ろうと戦い続けた。
手段を選ばず禁忌を犯し無道を歩み続けた。
戦う、戦い、戦い、戦い、戦ってきた。

光は語る。

「日本はあの戦いで――大戦で負けた。
そして、この国のために戦った人間を、日本人は裏切った。
あの十三帝将さえも堕ちた」

光は語る。

「草薙悠弥は人に否定された。
草薙悠弥は人に裏切られた。
草薙悠弥は人に見下された。
草薙悠弥は人に侮蔑まれた。

それでも草薙悠弥は戦い続けた。
戦い、戦い、戦い、戦い、戦い続けた。
――神風無道。
日本を守るために、手段を選ばらない。
日本を守るために、捨身で敵を殺し尽くす。
正道を歩み――外道を歩む」

光は語る。

「多くの人間を助け、多くの国敵を殺してきた。
だが――」

だがそれでも――

光の言葉には心からの称讃があった。
光の言葉には心からの憐憫があった。
そして――

――この日本は滅ぶ。

絶対の神が宣言する。

「おおおぉぉぉ!!」

獅子吼が響く。それが自身の声だと、草薙はわからなかったしどうでもいい。
限界だったこの存在が存在する事が許せない。

腕に集束する神理。
莫大な力が

(滅ぼす!)
思いは一つ。目の前の光を滅ぼす事のみ。
風が爆発する。
草薙が光に向けて風の神理を撃ち放ったのだ。

「――光あれ」

光が詠じた。
瞬間――

サ”アアアアアアアア。

光が膨れあがる。

光と闇がぶつかりあう。

膨れあがる力。そして光が膨れあがり――空間を塗りつぶした。

「!!」

草薙悠弥はソコにいた。

発生した力の衝突の余波は嘘のように消え去っている。

(ここは……)

一言、そこは異世界だった。
森羅万象を司る力が成す空間。

その空間に草薙は在った。

先ほど立っていた空間とは明らかに異なる。

創世神器という超常の力。

そして神の領域にある存在が事象をねじ曲げる。

「――光あれ」

瞬間、光があった。

創造の力。

隔離された新世界。

白い空間。
白い白い、灰。
純白の死の灰。

灰の十字架が打ち捨てられた世界。

草薙はその中心に立っていた。

「!?」
神理の世界。
神理者の中でも超越の力を有する者が創造する空間。

(ッツ!?)
そしてこの世界を草薙悠弥は知っている。

この純白の死世界を創造できるの
はあの男以外に有り得ない。

はじめに神は天と地とを創造された。
地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。

神は「光あれ」と言われた。すると光があった。

神はその光を見て、良しとされた。神はその光とやみとを分けられた。
神は光を昼と名付け、やみを夜と名付けられた。夕となり、また朝となった。第一日である。

響く聖句。

光が存在を顕にしていく。

ソレは理不尽なほど強く。
ソレはあり得ないほど強大で。
――絶対だった。

光の圧倒的なプレッシャー。
万象を砕き圧倒する力の波動は誰しもを屈服させるだろう。

「聖戦が始まる。」
神か魔か、それとも人か。
祝えよ日の本――今日が第一日だ」

宣言と共に、躍動する新世界。

純白死世界は光を放つ。

創造されし純白の死世界は喝采するように震えた。
黙示録のラッパを吹きならすように地響きを立てる。
天が震え、地が響く。
ソレは世界が軋む音だ。
黙示録のような崩壊の地響きが――
止まらない止まらない。
これより始まるは空前絶後の戦争。
人が死に魔が死に神が死ぬ。

全てを圧倒し、超越する戦いが始まる。

「貴様……」

草薙が光を見る。
忘れもしない覚えてる。
かのものこそ真の国敵。
虚神が守るべき人間を――
万の日本人を神の光で焼いた存在。

ソレは圧倒的な存在。
ソレは絶対的な存在。
ソレは――神。

「――さぁ戦争をはじめよう」

存在だけで万象を制する力。
見るだけで破滅衝動を突きつけられるような麗貌。

――光の君。

「クリストフ!!」

草薙悠弥は呼ぶ。
真の国敵の名を。

クリストフ・トゥルー。
――真ノ神がいた。