82話

悠久ノ風 第82話

82話 


百万の軍を薙ぎ払った神風。

国敵を滅ぼす破壊の大奔流。

「開戦の号砲か」

「さぁ」


「これで」

「――宣戦はなされた」

百万の魔軍が砕け散る。

神風。

それはかつて大陸から侵略軍が攻めてきた時に、日本を守った風。

その歴史を証明するがごとく、神風は百万の魔軍を討ち滅ぼしたのだ。

「…………」

リュシオンは驚愕する。

「…………」

ガルディゲンは戦慄する。

絶望をふりまいた二大国ははじめて「絶望」をたたきつけられた。
神風による侵略軍の壊滅。

全てがここから始まると宣言する。

「――リュシオン」

草薙悠弥が神の国の名を紡ぐ。

「…………」

「――ガルディゲン」

草薙悠弥が魔の国の名を紡ぐ。

「…………」

草薙の言葉には凄絶な響きがあった。

底なしの虚無の中に、極大の怒りと誠心が混ざっているかのような
あり得ない響き。

「…………」

無惨に死んだ数々の人間達の姿が見える。
神風が吹かなければ、死んだ人間は何倍にもなっていただろう。
百万以上の民間人が――死んだのだ。
そして、これからもこいつらは殺すだろう。
故に。

「――お前達を滅ぼす」

血を吐きながら草薙悠弥は宣戦する。
既に彼に力はない。
――只の日本人。
体は壊れている。
満身創痍というのも生ぬるい。
今生きているのが不思議なほどの終わっている。

神風という絶大な力の行使。
その力の代償はあまりにも大きかった。

(だから――どうしたぁぁ!!!)

血を吐きながら草薙悠弥は言葉を紡ぐ。

「虚神が宣戦する。
国敵の討滅を!
蒼生の守護を!」

ああつまり――

「素晴らしい。
ここに開戦の号砲がなった」

「この神ノ風をもってはじまりとしよう」

「はじめよう。
この日本の――世界を行く末をきめる」

凄絶な光景の中、数多の神が見守る。

百万の軍勢が砕け散る中、草薙悠弥は宣言する。

「――戦争だ」