41話

悠久ノ風 第41話

41話 



「――国敵討滅」
凄絶な神理を撃ち放った虚神。
撃ち放たれた対神攻撃は魔を薙ぎ払い、魔軍の中枢に炸裂した。
会心の一撃。しかし

「ぐっ!?」

草薙悠弥の全身から血が噴き出す。
限界を超えた神理の発動。
その反動が草薙の肉体をさいなむ。
細胞が死に絶えるような激痛と虚脱感が全身を支配している。
凄絶な神撃の代償に肉体がオーバーヒートを起こしているのだ。

(奴は……どうなった……)

それでも見据えるのは彼の国敵。
日本中を覆い尽くす負の極大の殺気は健在。
励起し躍動する神域の中心で、草薙は彼方の魔天を見据えた
総身を蝕む凄まじい激痛と虚脱感。

現神域の力を引き出し撃ち放った凄絶な神撃は
魔軍に大きなダメージを与えた。

だがそれでも……

(奴らは……ガルディゲンだ)

最凶の魔大国。
そして――

「ハッ……」

天の魔神が笑う。

「ハハハハハハハハッ!!!」

最凶の国敵だ。

心底おかしそうに、心底死ねというように。
笑う嗤う天魔が嗤う。。
狂える笑いの声。
響く狂笑の大音声に天地が大震する。

「素晴らしい素晴らしい素晴らしい!
素晴らしいぞ虚神」

天が震え地を圧倒する魔神の狂笑。
生きとし生けるもの全てに恐怖を与える声だった。

「力の大半を失ってなおその力。その気概。
実に、実に素晴らしい」

「くひっくひひひひひひひひっ!!」

天を震撼させる下卑た笑い。
その下種さこそ魔神が魔神たる所以であるというように。

凄絶な蒼の神撃に抉られて天魔の城が揺らぐ。

「あぁ、最高だ、最高だよ神風無道。手段を選ばず、日本を守ってきた虚神。
貴様の在り方は狂っている」

天魔が笑う。

「何人殺した?何人犯した? 実感できるぞ我ら魔ですら侮蔑する。
おぞましいほどの殺戮を重ねながら、日本のために戦い、そして神罪人として否定された……だが……」

瞬間、天魔の温度が零度に下がる。

「それでも……」

静謐に、突き刺すように。

「日本を守るために戦うのだな貴様は!?」

「……知るか」

草薙が応える。俺は自由にやる。
その上で。

「――国敵討滅、それだけだ」

草薙悠弥は理を口にする。
国敵にくれてやる言葉などそれで十分だというように。

遥か彼方の草薙悠弥と魔神は対峙する。

「哀れだ哀れだ哀れだぞ草薙悠弥!」

魔神が嗤う。
敗北者の日本人と嘲りずむ。

だが――

「人間以下の屑!!
畜生以下の哀れ!!
だがだがだがああぁぁぁ!
そんな貴様がガルディゲンから日本を守ってきた!?
何度も、何度もだ」

魔神の怒りが天を震わせる。

「憎らしいぞ憎らしいぞ
弱者である貴様が!
弱き者である貴様が!
魔大国相手によくもやってくれた」

草薙悠弥はガルディゲンと戦ってきた。

今回のガルディゲンの侵攻の前哨戦だけでも百を超える。
日本侵攻のために準備された大量破壊兵器たる存在との戦い。
ヘルヘブンとの戦い、魔竜との戦いをはじめとして日本を侵攻する
存在と戦ってきた。ガルディゲンが日本侵攻のために事前に送りこんだ魔の眷属、魔物や魔族、それらの魔の
討滅数は千を超えていた。

故に魔神は滅びの勇者に向けるのだ。

――恐るべき憎悪を。

草薙悠弥という存在がいる事によって喰らい損ねた魂、絶望はどれほどにのぼるのか。
魔神を怒りをもって草薙を見据えた。

「だがあぁぁ……」

ありえないほどの力を有した魔の法が発動。その法陣はグロテスクなまでに複雑怪奇。
生物的幾何学模様を描きながら、膨大な魔力が神法陣に集束。
その力は

「それも終わる」

魔神は宣する。

「今の貴様の神撃は見事だった。
魔軍の千は消えた。
万の日本人の命が永らえたろう」

全てを見通す魔神は語る。

「怒りに支配されながらも
国敵を討滅し蒼生を守護する。
その生き方。
その在り方。
――正にこの日本の守護者だ。
しかし……」

瞬間、神法陣が明滅した。

凄絶な蒼の神撃で穿たれた魔軍の中枢。
だが、魔軍の嘶きは止まらない。

血を流せ。
死で満たせと狂乱する。

「殺せ!」
「殺せ!」
「殺せ!」
「殺せ!」
「殺せ殺せ殺せ殺せ!!」

称揚する殺戮魔軍。
負の嘶きに応えるように魔軍の魔力と命脈を司る魔城がグロテスクにうごめいた。

ジュグジュジュウウウゥ。

魔軍を司る天の魔城がうごめく。
数多の生命を殺し、贄としてきた殺戮魔天がその魔性を発揮したのだ。

そして――

「魔の軍勢は――」

魔神が絶望を宣言する。

「――百万だ」