40話

悠久ノ風 第40話

40話 


「ハッハハハハハハハハハハハハ!!」

殺戮の宴に魔神の哄笑が天に響く。

――和解は不可能。
――理解は不能。

合理的解決も平和的解決もあり得ない。
目の前の現実が証明している。

――ガルディゲン。
――リュシオン。

その圧倒的力を前に――

「国敵ぃぃぃぃぃぃ!!」

ここに極大の嵐が顕現する。

――草薙悠弥。

「オオオォオオ!!」

怒り怒り怒り怒り。
草薙悠弥の胸の内に激情の嵐が吹き抜けた。

わかっていた。
理解していた。

ガルディゲンの残虐さを。
ガルディゲンと戦ってきた草薙悠弥が誰よりも理解していた。

だが――

「ああああああぁぁっ!!」

止まらない止まらない。
怒りが怒りが怒りが怒りが。

明滅する創世神器。
草薙悠弥の獅子吼が創世神器が共鳴する。

「止めろおおおぉぉぉぉおおぉぉ!!!」

「――――」

瞬間、天の魔神城に嵐が吹く。
それは殺気の嵐。
恐るべき殺気が魔神を圧したのだ。

「な、にっ?」

刹那魔神が停止する。

「ガッ!」
「ガガッ」
「グゥッ」

魔軍を統率する魔神の停止は、魔軍の殺戮を一瞬停止させるに至った。
魔神すら瞠目させる殺気、ソレは遠く離れた風守から、吹き付ける。
殺気の嵐が刹那、ガルディゲンの魔神の中枢を抉ったのだ。

「貴様……」

――有り得ない。

だが魔神は知っていた。この声の主が――

「――虚神」

虚神が――有り得ない事を幾度も成した事を。
魔神を以てしても、感じる事のない桁違いの殺気。
殺気の嵐の主が誰なのか、ガルディゲンの魔神は理解していた。

「やはり貴様か……」

静かに紡ぐ。

「虚神、虚神、虚神、虚神……」

魔神が――ガルディゲンが震える。

そして――

「虚神イイイィィ!!」

極大の黒い感情を流出させる。

「やはり、やはりなぁぁ!
ああ待っていた。待っていたぞ虚神ぃぃぃ!」

魔神は猛る。

「無道の守護者、日本を守りし狂人よ!」

魔神が吠える。

「とっくに滅んでいたはずの日本を、死に損ないのこの国家を守ってきた貴様が!!」

虚神を弾劾する。
それは魔大国ガルディゲンの意志。

「朽ちても戦い。
果てても戦う。
永遠と終焉と対峙する。
人に否定され
人に嘲まれ
人に裏切られし神罪人よ」

光のリュシオンとは異なる。
闇のガルディゲン。
世界を絶望で満たし、死で溢れさせる真性の魔性。

空を犯し地を凌辱する。

「クっ、ククック!!
クハハハハハハハハハハハ!!!」

魔神の狂笑が空を大震させる。

「あぁ本当に――」

狂い栄える負の凶念が止まらない。

「なぜ日本人はこんなに馬鹿なのか。
なぜこんなに日本人はクズなのか。
度しがたい度しがたい度しがたいぞ、猿どもよ」

吹き荒れる暴意と悪意。

「そして――」

瞬間、狂乱の魔が反転する。

「最も度し難いのは――」

日本全てを蹂躙し犯さんと俯瞰していた視線が只一人に――

「貴様だ虚神」

反神に向けられた。
殺戮が停止する。
今この瞬間、一億殺戮を掲げし魔軍の長の注意は、この風守に向けられる。

「哀れだ哀れだ哀れだ。
狂ってる狂ってる。
哀れだぞ、虚ろなる守護者」

魔神の言葉には長き時の響きがあった。

「古の時、あの戦いで滅ぶはずだったこの国を……貴様は守った……」

絶望を謳う。

「――神風でな」

真理を語る。

「……」
魔神が沈黙する。

『神風』。

その言葉に幾百年の因縁が込められていた。

「だが安心しろ、滅亡が決まった日本を守ろうとする無為な戦いも今日終わる。
ここまで貴様らを地上から消す事で。
リュシオンは貴様らを絶滅させそこねた。だが私は違う」

絶望を謳う。

「全ての絶望を引き出し殺す」

絶望を謳う。

「屑以下の日本人を
極上の餌に仕立ててやってるのだ」

絶望を謳う。

「泣き叫び感謝し死に絶えろ」
ぶつけられる極大の悪意。

クリストフ・トゥルーとは対極。
光の神とは違う。あるのは地獄の悪意そのもの。

「その怒りその慟哭。
抑えていたか抑えていたな?
極限までずっと」

草薙悠弥の剥き出しの憎悪に応える魔神も尋常ではない。

放出される超弩級の魔力。
魔神が笑う度に天が震える。

「絶望しろ日本、この日本に神はいない」

そして殺戮が再開される。

止めろと叫んだ、草薙の制止を嘲笑うかのように殺戮が再開される。

言葉で戦いは止まらない。
無法者に道理は通じない。
そんな当たり前の現実を粛々と見せつける。

弾ける。
草薙悠弥の意識が覚醒する。

草薙の腕に膨大な蒼の風が収束した。

怒りに精神が焼ききれる。

(――滅ぼす)」

草薙悠弥の脳裏にあるのは只一つ。

(こいつらを――滅ぼす)

彼方を見る。

天に蠢く神法陣。
何人もの日本人を虐殺する魔族。

その統率をしているのが、あの真神。

――殺す

蒼が湧出する。

「国敵が……」

決意する。

「貴様らが……
貴様ら見てぇなゴミ共が
俺の国民に手ぇだしてんじゃねえぇ!!」

草薙の怒りが爆発する。

「ふざけやがってゴミ野郎が
殺す殺す殺す。
殺す殺す、滅ぼし尽くす」

剥き出しの敵意。
剥き出しの憎悪。
剥き出しの殺意。

在るのは怒りだった
日本人を虐殺する魔族。
日本人を弄ぶ神族。

「アアアアアアアアァァァァ!!」

国敵への純粋な怒りだった。

その姿は鬼神も恐怖する凄絶さがあった。

「俺の国民に――」

草薙の誓言、蒼が収束。

見据えるは天。
絶望を作り出している存在――天の真神。

神法陣が震えた。
天が震え地が沈む。

「手を――出すなああぁぁ!!」

瞬間、蒼の嵐が顕現した。
草薙の腕から現出せし極大の嵐。

「国敵討滅――」

嵐を一点収束させた神撃が狙うは――天の魔神。

滅ぼすは国敵。

「蒼生守護オオォォ!」

滅ぼすは魔神。

「オオオォォ!!」

そして――

「――――」

放たれし蒼の神撃。
国敵討滅の神撃が放たれる。
蒼光が猛り天を駆ける。

それは正に蒼の神撃。

強く、強く、強く。
蒼の神撃が天空へと放たれる。

天をかける蒼光の衝撃波。
それは超熱量の光線を凌駕する
破壊の奔流。

絶望で染め上げられた空を蒼の光刃が切り裂く。

国敵討滅の蒼光が――駆ける。

「――」

少女が蒼の光を見た

「悠弥様……」

――<命>が仕えし者の名を呼んだ!

空をかける蒼光の風。
それは蒼生守護の光だった。

「あれは……」

天代がみた。
空をかける蒼光の風。

それは国敵を討つ風だった。

「あれはっ!?」

「蒼の……!?」

「――風!?」

その瞬間、数多の人間が空を見上げた。

天から襲う魔物を滅する
空を駆ける蒼の光を――

「何だ、あれは」

中央で、魔族と戦う防衛隊の人間達が空を見た。

魔軍を滅ぼし、駆ける蒼の軌跡。

防衛隊の将が見上げる。

「なんなの、あれは……」

魔族から逃げまどう中年の女が見た。

日本の女達を殺そうと天から飛来していた魔族達が、天駆ける蒼の神撃によって消滅する。

「あの光はッ!?」

蒼の光刃が嵐となり駆け抜ける。

「なんじゃぁ、あれは……」

逃げまどう日本の老人が天を見た。

日本の老人達を殺そうと飛来していた魔族達が、天駆ける蒼の神撃によって消滅。

「あの光りは……」

蒼の光刃が嵐となり駆け抜ける。

幾度も幾度も幾度。
数多の数多の数多の人間が。
空を駆ける蒼風の光刃を見た。

人を襲う魔族を滅しながら、凄まじい速度で
蒼の刃が空を駆ける。

蒼刃の嵐が幾多の天魔を滅ぼし一直線に魔神へ駆ける。

そして――

――ゼザアアア
蒼き光が天を駆ける。

蒼光が射線の魔物を薙ぎはらった。
倒したのは今正に、日本人を襲おうとしていた天の魔物。

天に群れる魔物をも討滅しながら、蒼光が空をかける。

日本人への虐殺を開始しようとしていた魔物が次々と蒼光に消える。

蒼が猛る。
蒼が吼える。

その蒼光が狙うは天の神陣。

吼え猛る蒼の神撃が真神に迫る。

「――――」

「――――」

ゼザアアアアアアァァァ!!!

――蒼光。

瞬間世界が反転する。
桁違いの力の激突。
蒼の神撃が天魔城に直撃する。
瞬間、蒼光が弾けた。
空が狂うように震える。

蒼の光が膨れ上がり――爆発する。

「伏せろおおおぉ」

誰かが叫んだ。
地上で戦う者も、敵も味方も力の余波に震える。

明滅する天。
震える海。

凄まじい衝撃波。
極大の力と力の衝突が恐るべき衝撃波を生んだのだ。

空を圧倒する超弩級の神撃。
蒼光は猛り狂う。
轟音が響き渡り、光が空を圧倒する。
膨張する蒼光。
眩い光に地上の者は目を閉じた。

光が収まる……

「あれは……」

皆が天を見上げる。
圧倒的質量を有する魔神があった。

だがその魔神の半身は、神撃を受け抉れていた。


「なっ!?」

「あっ、あれはっ!?」

「あのでっけぇのが……」

「抉れてやがる……」

「すごい……」

魔神を抉った蒼の神撃。
天に映し出された凄絶な光景に、数多の日本人が息を飲んだ。

「や、やったの……」

絶対絶望存在として日本の天を犯し、君臨していた魔神を撃った神撃。
その神撃は圧倒的な力を有する魔の中枢を薙いだのだ。

だがその瞬間――魔天が震えた。