38話

悠久ノ風 第38話

38話 


――ガルディゲン。

魔大国の名を冠する存在。

数多の人間を殺し、数多の国を滅ぼした

その枢要たる存在が、天に座していた。

「――――」

魔が蠢いていた。

星をも喰らい、三千世界を破壊する魔性の暗黒天体。
目だけで月と見まごうばかりの巨大さ。

「あり得ない」

馬鹿じゃないか、狂っているというスケール感。

悪魔などという規模ではない。

「魔神……」

圧倒的な力は魔族の上位存在たる魔の神を彷彿させる。

「いえ……」
強すぎる。
空前にして絶後。
魔神の強大さは理解している。
だがそれでも……それでも……

「大きすぎる…………」

力の桁が違いすぎる。
存在を知覚するだけで絶望が肉体を侵食してくる。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
あまりにも強大。それでも
なお膨れ上がる魔の神威。

「あれは……まさか……」


「太陽が……」

――太陽が犯されている。
どす黒く染まりあがる太陽。
太陽を犯す暗黒天体、風守の上空で廻り明滅する神の法陣。

「あれは……」

あまねくの宗教全て入り交じったかのように、神の境なき紋様。

――だが決定的に何かがズレている。

あまねく宗教が持つおぞましい部分だけを抽出たような。
災厄を何千倍にも圧縮し、おぞましい腐汁で煮詰めたような。
人間の恐怖を喚起させるものがあった。

魔から幾度もの神言が紡ぎだされる。

空が激震する。

「――死に絶えろ」

悪意に満ちた箴言が響き瞬間――

「!!」
「!?」

満天に絶望が広がる。

天に映し出された絶望の光景。
人が死ぬ人が死ぬ人が死ぬ人が死ぬ。
死死死死死死死死死死死死死死死死死死。

魔が食らう。人を食らう。
魔が何十の人間を焼き払う。
魔が何百の人間を喰い殺す。
魔が何千の人間を切断する。

絶望が日本中を覆っていた。

日本に侵攻した魔大国ガルディゲン。
凄まじい暴力が日本を蹂躙する。
万を超える人間が殺されている。

「一億総殺」」

魔が宣言する。

そして破壊の映像がうつしだされた。

「うっ……」
「あぁっ」

瞬間、共有されるイメージ
風守の女達が呻く。

天に数多映し出される光景。
魔神の強大な力の証左である。

「あれはっ!?」

映し出されたのは日本の都。
そして、日本の守護を司る機関だった。

だが――

「あっ……」
そこに広がるのは絶望の光景。

ソレを表すのは只一言。

――死んでいる。

ソレを表すのは只一言。

――終わっている。

「あっ……」

「あっ……」

「あっ……」

その光景は絶望だった。

男が殺されていた。
女が殺されていた。
大人が殺されていた。
子供が殺されていた。
若者が殺されていた。
老人が殺されていた。

人が機能がその場所が、全てが死に絶えていた。

埋め尽くされる死の連鎖。

――地獄。

全きの地獄。

死に溢れ血が流れるその場所は地獄に他ならない。

地獄が地獄が地獄が地獄がひたすら繰り返される。

空を埋め尽くす存在があった。

空から降りるのは絶望だった。

空が動く。
否、空ではない。
ソレは空から来襲せし万魔軍。
黒い空と見紛うばかりの魔の大群だ。

黒き空が動き出したのだ。
ソレは絶望的に残虐で。
ソレは絶望的に容赦なく。
――虐殺を行う。

逃げまとう日本人を殺し
防衛隊を引き潰し、殺戮を敢行する魔の軍勢。

抵抗する事もできずに、魔族や魔物から貪り喰われてるむこの人々。

一億総殺。

魔軍から放たれる極大殺気。

全て殺す。
この日本の人間を全て。

赤子を殺す。
子供を殺す。
老人を殺す。
若者を殺す。
男を殺す。
女を殺す。

断末魔が響き、血がぶちまけられる
生み出されていく死と絶望。

無辜の民の血と絶望と死を浴びた
万魔軍の勢いは増すばかりだった。
血肉を贄とし、絶望を糧とする。
万魔軍の殺戮進撃は止まらない
全て全て全てを殺す。

殺戮の進撃を続ける絶滅魔軍。
死をふりまく破壊の凶星が日本に進撃する。

そして魔神の絶望の宣言が日本に響く。

――絶望しろ日本。この国に神はいない。