大量破壊

悠久ノ風 第23話

23話 大量破壊


――海が赤く染まっていた。
防衛隊の人間の血だった。

血、血、血。
赤、赤、赤。
屍山血河があった。
残骸すらも喰らい尽くし、魔軍は侵攻する。

魔軍の正体は――ガルディゲン
魔大国ガルディゲンの魔軍により日本海は蹂躙されていた。

「化け物どもめ……化け物どもめえぇぇぇ!!」

半狂乱で叫び奮戦する兵達。
だが決死の戦いも魔軍の前には空しい抵抗だった。

魔軍の容貌は一言異様につきる。

恐怖という概念を煮詰めて作られたような容貌。
歪な巨体。
膨張する鈍色の翼。
爆薬も兵器も通用しない。
ガルディゲンの魔物、その中でも更なる異端であった。

「GKUGAAAAA」

魔軍が侵攻する。

「ぐがあぁぁっ!!」
次々と足を砕かれ体を貫かれ
「うぎゃあああぁぁっ」
臓腑をまきちらす。

魔軍の侵攻は続く。
絶命絶命――絶命。

圧倒的な力を持つ魔の軍勢に、兵士達が蹂躙されていく。

「くそっ!?……くそおおおぉぉぉ……あがっ」

奮戦する隊員が魔物の一撃に肉塊となる。既に全滅に等しい状態だった。
生き残った防衛隊員も渾身の理法を振り絞る。

「GYIHAGAHYA」

理法を受けた魔物は命がけの攻撃を嘲笑うように鳴き凶腕を振り下ろす
「ぐがあぁぁっ」
また一人、防衛隊員の命が刈り取られる。
だが魔軍は止まらない。
次々と隊員達は足を砕かれ体を貫かれ臓腑をまきちらす。

絶命、絶命――絶命。
最新の兵器もガルディゲンの魔物相手には塵に等しい。
砲撃も炸薬も魔軍を削るには至らなかった。
それでも逃げる事なく抵抗を続けるのは、彼等防人の義心であり
まごうことなき勇猛さだった。
心技体共に精強といって間違いないだろう。

だがその義心も強さも絶望で塗りつぶすほどの圧倒的な魔の力が
狂い猛る。

「ガアアアアアア!!」

魔軍が隊員を潰していく。
数メートルを超える魔物が兵士を蹂躙していく。
防衛部隊も魔物に対抗する事が出来ない。

「化け物が化け者が化け物があぁぁぇぇ!!」

半狂乱になり防衛隊の男は叫んだ。
だが身の丈を大きく超えるガルディゲンの魔物の前に
潰された。
ガルディゲンの魔物の前に殺されていく。
防衛隊は全滅した。
宣戦は成され、殲滅が成されていく。

絶望の戦場から、マナ、リアリスが上がっていく。
魂や絶望が天に上がっていくように。

そして天から魔声が響いた。

――殺せ殺せ殺せ。
――この日本の民を神世界に捧げよう。
――我が魔神の御前に――

 

 

戦争は避けるべきだ。
戦争には合理が必要だ。
戦争は数多の悲劇を呼ぶ。

然りである。

――ソレが人であるならば

だがしかし

――ソレが魔であったなら

「オオオォッ!!オオオォォォ!!!」

ここに真性の魔が顕現する。
歪み狂ったガルディゲンの魔族。
魔族達は鬨の声をあげる。

人間の心を喰らい肥大する者
人間の体を喰らい強くなる者。
人間の魂を喰らい強くなる者。

魔を奉じ悪を成す真の魔性である。

武威を示す事で国家を存亡させる。
ガルディゲンは戦争の利潤を得られる。
莫大な損耗を超える膨大な利潤を得られる事。
その戦争の条件を残念ながら――満たしていた。
つまりは利益。
日本を攻め滅ぼす事で得られるメリット。
日本侵略のメリットは膨大。

技術の全て。

そして――人間。

この日本に眠る数多の利潤、数多の利権、数多の資源。
そして数多の――人間が手にはいる。

さらには――

「神異の――日本のエネルギー」

この真暦の世界において日本は神異点となっている。

ガルディゲンの魔族は人間を尊ぶのだ――極上のエサとして。
そして日本はこの世界において特異な国だった。

「そして日本に眠る資源。
それは人間」

「そして――創世神器」

この世界で神異点と化した日本。
この国の歴史が溜め続けた絶大な力。それは神や魔が真から欲するには十分だ。

あの国を潰せば創世神器が手に入る。
創世神器。

神器という存在だけでも希有だ。
だがその中でも「創世神器」は特別。

纏う力に比肩するものはなく、おこす事象は別格そのもの。

ガルディゲンは超常の力を有している。そして欲しているのだ。
創世神器。
力の絶対量ではない。力の質がガルディゲンでは作り出せないのだ。

故に簒奪する。

そして――

――殺す
――殺す
――殺す

溢れ肥大する極大の殺意が奮え滾って止まらない。
殺す殺す殺す。
膨大な利害利潤を凌駕せんばかりの破壊欲求。

「我らはあの日本を滅ぼす」

ガルディゲンの魔神の声は殺戮の響きを伴っている。

許せない許さない。
許せない許せない。
800年前のゲンによって滅ぶはずだったこの日本が。
存ずるのが許せない。虚神の神ノ風がなけれれば滅んでいたはずの古の国。
――生け贄にせよ

我が魔大国の盟主に日本人の命を捧げてくれる
喰らい貪り蹂躙しつくす。

ずっとずっと。大陸の赤き魔大国は日本に狙いを定めていた。

ならば放つ。
戦力は使うためにあり、兵器は放つためにあるのだから。

「GOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

嘶きがきこえる。
嘶きに頷き、凶貌の男は諸手をあげた。

肌を灼くような鬼気を漲らせる魔軍を見て、魔が哄笑する。

殺し犯して焼き尽くす。

狂熱を宿した魔軍。
狙いは日本
オオオオオオオオオオオオオ
魔軍が狂いし鬨の声をあげる。
狂乱のガルディゲン、世界を喰らい蹂躙する魔性の魂が歓喜に奮えて止まらない。

――死に絶えろ死に絶えろ全て残さずを殺し尽くせ。

魔が来る。
何者よりも凶暴で何よりも悪辣なガルディゲンの魔族達が来る。
既に日本海の防衛隊は壊滅。

そしてその侵攻の片鱗が日本の都市群に迫ろうとしていた。



――それは規格外の絶望だった。

数多の建造物をふみつぶし、巨獣は進撃する。
骨が砕かれ血が飛び散る。
想像を絶する魔の力が空間を蹂躙する。
並みの人間はおろか、神理者でさえも
戦う事を諦めてしまうような
圧倒的な大質量。
戦うとか勝つとかそういう次元にない。

この一体だけで国を滅ぼした災厄の獣。
事実この巨獣にはいくつもの都市を壊滅させ、数多の人間を殺した負の実績があった。
――元世獣。
この一体だけで国の存亡をかけた国難である。

「た、たすけてたすけてたすけっぐえぇっ」

「いやだいやだいやだぁぁ!!ぎぐぇえぇっ!!」

喰われていく潰された。
人間を建物を、殺し壊して蹂躙する。

だが彼らはある意味で幸せといえた。
国を喰らうような
巨大なやくさいの獣。だがそれさえも日本を襲う絶望の只の一角でしかない事を。なによりも深い絶望を知らないまま死ねたのだから。

「がああぁぁぁぁ」

巨大な神の獣が吠える。

元世獣デイヴォドームが、死と破壊をふりまきながら進撃する。

国壊の魔獣。

「化物、だ」

防衛隊の人間が絶望の吐息をもらす。
人間が戦うとか。

ガルディゲンの破壊兵器元世獣。
デイヴォドゥーム。
獣が狂い吠えたける。

カタストロフが始まろうとしていた。

放たれる大量破壊兵器。

抑えきれない凶気が世界を圧壊させる。
原子炉めいた凶念をほとらしばせ、真正の魔性が動き出す。

殺そう全て滅ぼそう。
この神異点たる国の――日本の民を。
神世界へさざげる贄とするのだ。

地上に蠢く魔物達を見下ろす天上の魔神達がいた。

戦理もある
理由もある
そしてそれすらも凌駕する破壊の衝動。
古来のゲンがそうしたように――
彼らガルディゲンは世界に破壊の災禍をふりまく。

そして――

魔神の理よ
我らは殺し。
我らは喰らう。

鬨の声。暴虐の魔性が一斉に雄叫びをあげる。

魔大国が滅ぼした国は幾多に昇り、
魔大国が殺した人間は幾万を超える。

おぞましき殺戮の力が、日本を蹂躙する。

「――国敵討滅」

草薙悠弥は天を見ていた。

草薙悠弥は天を見る。
なにものにもかえがたい力。
煮えたぎる怒りは押さえない。
わめき立て怒りを出すのはまだだ、それでは一人も救えない。
わめきたて怒りを出す衝動を抑える、抑える、抑える。
※無論、なんとなくのように 副音声表現で怒りをこれでもかと
表現してもいいかもしれない。

自分にできる事を、滅びが定められた絶望の中で
一人でも多くの人間を助けるために

始まりに向けて、草薙悠弥は向かう。

風守神社の―――創世神器の間へと。