正真の刃

悠久ノ風 第18話

第18話 正真の刃



フンフン乳揉みで大暴れしていた草薙に振り下ろされた裁きの雷。
その射手は――ラムだった。

「よぉ、ラムこう」

ラムの理法を食らいながらも、草薙はシュタっと手をあげた。

「く・さ・な・ぎ・ぃぃぃーーーーー」

泰然とした草薙の様子にラムはズカズカと進撃するように迫ってくる。
戦闘で受けたであろう傷はそこかしこにあるが、負傷を全く感じさせない迫力である。
「ラ、ラム」
「無事でよかったでござる~」
ラムの姿に葉月達は安堵する。
ラムを探しに何人かの下忍が捜索していたが、姿が見えなかった。
傷をみるに相当の深手を負い、神域の深いところまで落ちたらしい。

だがこうして無事な姿に葉月は心から安堵した……のだが……

「っしゃおらああぁぁぁ!! ぶっ殺す!! 風守になめた真似してる馬鹿はぶっ殺す!!」

超元気だった。ラムなら大丈夫だという気持ちは皆あった。
だがラムという少女をよく知る葉月達からすればしごく納得いくものだった。
ラムという少女は一人でどうにでも出来る人間だという事を葉月達は知っていた。、

ラムは勢いを怒声じみたテンションで自身の状況をまくしたてる。
戦いの興奮も冷めきってないのは血の気の多い彼女らしい。
シグーとの戦い。子供を庇ったラムは神域の下に落ちていた。気を失い復帰するまでに時間がかかってしまった

「ガキは無事よ。ってか私が一戦ふいにしてまで助けたんだからあったり前。
それで仕切り直そうと思ったら」
手短に説明を終えたラムがふんと鼻をならし草薙を見た。
「そしたらあの草薙がグロバシオとは別ベクトルでぶっとんで狼藉してたの。
ぶっとばしたってわけよ!でも……」
そこでラムは倒れているグロバシオの人間達を
見回した。

「どういう事よ説明しなさい!!」
ラムは葉月やアゲハ達をみていた。
「サジンも! あのシグーも……バルモワとかテグムゾとかいうのも全部ぶっ倒されてる 」

ラムがグロバシオ規世隊の者達を見回した。

「剛蔵さんが倒したの!? 」

「剛蔵さんはサジンとの戦いでいま治療している」

「ッ!? じゃあタマノ? それともエリミナ?」

「e、el――私は……その……駄。目でした」
「すまんなぁラムはん。ウチもあかんかったさかい……」

ラムの問いにタマノもエリミナも首を振った。

「じゃあ一体誰があいつらを……」

ラムは
だが――

「あぁおっぱいおっぱい!!」
その時、心底ひどい草薙の声が響いた。

ピクリ、とラムのこめかみがピクついた。
葉月は心が折れそうになった。

「ほほほ、旅人はんは言動が屑くて宜しいどすなぁ」
カラカラとタマノが面白そうに笑い。
「えっelぅぅぅ――」
顔を赤くしたエリミナが顔を手で頬を覆う。

葉月達を見る草薙。
やっぱり何かの間違いかもしれない。割と絶望しつつ。葉月はおっぱいおっぱいいう、
草薙を見た。

「草薙! あんた本当社会的に認められないわよ!!!」
ラムがズカズカと草薙の前に立つ。

「それもまた良し」
一切の迷いなくそう言った。

「あ・ん・た・ね・えぇぇぇぇーーーーーーーーーーーあんたはああぁぁ草薙悠弥ぃぃ!!」

ラムの怒号が響き渡った。
どんな獣でも畏怖せざるをえない猛り。
しかし――

「ひあぁっ!! e、elうぅ!」
なぜか返ったのはエリミナの嬌声だった。
「へへへ、姉ちゃんええ乳しとるなぁ」

草薙がマジ凄い勢いでエリミナにセクハラしていた。

「草薙さん!! まずいですよ」

「問題ないとも。俺が法律だとも」

ぷちん、とラムの中のナニかが切れた。

「こんの真性のど屑がああぁぁぁぁぁ!!

ラムが叫んだ。

「おいおい、いい返せないじゃねぇの」
「潔く認めすぎでござるよ!!」
草薙があっさり認めて早綾が突っ込んだ。

「なんであんたは私が表れる時乳揉んでんのよ!!!ありえないでしょうがぁ!!」
「まぁ少子化やしな。ばってん必要な事ぜよ」
「何キャラよそれ!! こんのど外道がぁぁ!ぶっ殺す草薙ぃぃぃ」
ラムの怒号が響き渡る。殺気満々だった。

「思うにラムは怒り狂ってるみてぇだなぁ……」
「見、見ればわかるでござるよ!草薙お兄ちゃん!!」

素朴な疑問を吐き出したような草薙に早綾が叫んだ。
怒り狂うラムを前に空前のKYっぷりである。

「――ぶっしねーーーーーこのど屑ぅぅぅーーーーーー!?」
ラムが吠えた。再び雷が集束する。
完全に殺る気だった。

「ラム!! 待ってくれ」

葉月が止めにかかった。草薙は命の恩人である。これ以上ボこられるのは
よくない。

「なによ葉月! 私なんか間違った事言った!?」
「……言ってないな」

確かに草薙はやばい。だがしかし――

「でも……草薙は私達を助けてくれたんだ、だからラ――」
「だらっしゃーーーーい」

葉月の静止も完全無視したラム。
奇声じみた雄叫びをあげるラムが再び雷を放つ!


そして、さきほどモロに雷を受けた草薙へ助走をつけた。
「だらっしゃーーー」
倒れた草薙の腹にへ、たっぷり助走をつけたヤクザキックをかます。
「変態変態!? 変態変態!?」

けりまくる。ラムが凄まじい勢いでけりまくる。
早綾と葉月がヒッと声をあげる。
凛とした強い眼差し。だが若干目がイっている。

「この超剣呑な時に超剣呑な場所で狼桃色遊戯を行ってるホームラン級の馬鹿!!」

ガスガス倒れた草薙へYAKUZAキック。

「ちょっ、ラムちゃん……やりすぎ」

ラムは雄叫びと共に雷をふりおろす。
草薙へ向かって一直線に。
轟音が響き燃え上がるように雷がはねあがる。
「ちょっ、ちょっとラム……」
ラムの容赦ない攻撃にどん引きする葉月、声がうわづっている
バリ、ゴキ、メキャ
嫌な音をたててラムは攻撃を続ける。
「あいさつしろやぁーーーー」
謎の奇声をあげた

「あの……できたら生きてるうちに解放してあげてほしいんだが……」
「大丈夫よ葉月! 10分の1くらいは生きてっから!!」
ラムの目がイッていた。人を殺す事を決意した者特有の目である。

「ち、違う、草薙は私達を助けてくれたんだ」

「そうなの?まあ死刑ね!!」
「は、話を聞いてくれえぇぇーーーーー」

もはやわかりあえぬ!!
完全に殺る気だった

「だらっしゃおらあぁぁぁーーー」
ラムが草薙へ蹴りをかまそうとした時だった。
「なっ!!」
ラムの目の前から草薙の姿が消える。

「いい尻をしている」

YAKUZAキックをくらい力つきはずの草薙がなに食わぬ顔でラムの背後に回っていた
「うそ!?」
ラムが驚愕の声をあげる。あの攻撃をくらって平気でいるなんて。

「スレンダーなスタイルに反して大きいが――それもまた良し!!」

「お守りがなければ即死だった」
そう言って草薙は怪しげなお守りを草薙は取り出した。

「おまっ!そんなお守りにそんな力はないわよ!」

「信じれば通じる。心頭滅却すれば火もまた涼しい、昔からの言葉は含蓄がある」

峻厳な草薙の語りに確かな迫真力があった。。

「心持ちと意志が人間を強くする最も有効なものの一つ。その事を昔の人間はわかっていたのだ」

「あんた……」

無意識のうちに、ラムは後ろに下がる。

先ほどまで乳を揉んでいた男とは思えない。
草薙悠弥の堂々とした語り。

やってるのは乳揉みだが、さしものラムも『やべぇなコイツ』と気圧された。

「そして心頭滅却すれば火もまた涼し。おっぱいパワーで心を満たせば……
ぐふぅっ!!」
「ちょっ!?」

「く、草薙お兄ちゃん!!」

ガクゥ!!
草薙が膝をついた。
プルプル震えている。端的にいってダメージに足が震えていた。

「駄目じゃん!足にキてんじゃん!!」
どっちらけである。

「あ、あかんどす。草薙はんやばいどす」
「el――ま、まずいですよ!!」

やはり普通に効いていた。
「ふふ、しこたま殴られたからな。ふふ……」
草薙が生まれたての子鹿の如くプルプル震えた。
草薙が倒れそうになる。

「っしゃおらあぁぁぁ!!とどめよぉぉ!!ぶっしねどくず
草薙ぃぃ」

そしてラムも大概である。既にぼこられた草薙へ全力全開で殴りにかかった。
しかし――

瞬間、草薙の視線に――ラムの後方に光りが点滅した。
わずかな、だが確かな凶気を宿した光り。
膨大な力の――理光。
その光りはラムと草薙を諸共狙っていた。
だが――
「かかったなぼけぇぇぇ!!」
「!!」
草薙が叫ぶ。その言葉はラムに向かって放たれたものではなかった。
その違和感がラムが振り上げた腕を一瞬停止させる。
瞬間ラムは気づいた。後方から放たれる――殺傷の攻撃に。
(まず――奇襲!!)
気づくと同時に音速の拳が振り抜かれた。
その拳はラムの真横をすり抜け
――ゴキイイイイ
謎の襲撃者の顔面を砕いた。
不可視の強襲者の骨がへし折れる音。
顔面がくだける。
奇怪な紋様が刻まれた衣服の男の姿が浮かび上がる。
「ギガァッ!!」
草薙の一撃をもらったの異相の男は獣が潰れたような声をたてた。
「おおおおぉぉらああぁぁぁ!!」
草薙が一気に拳を振り抜く。
――ズガアアァァ
轟音を立て、異相の男が吹き飛ぶ。
後方の大木に叩きつけられ、異相の男はピクリとも動かなくなった。

「なっ」

「どけっ!?」
反射的に草薙はラムの肩をつかんだ。
「はぁっあんたなにを」
「いいから!?」
そしてラムを真横に引き倒した直後、禍々しい理光が弾けた。
彼女達を草薙に迫る。

「!? あんた――……」

法撃はラムをどかせた草薙へと真っ直ぐ伸びていく。。

ラムの叫びは衝撃音でかきけされた。
炸裂、爆発。法撃の煙が巻き上がる。
追撃の法撃だった

「……随分荒っぽいやり方すんな~危ないやん?」
体を張って法撃を防いだ草薙。手から赤い血が流れていた。
草薙は向こうに見える法撃手に向かって言い放った。

「あんた……今私を庇って……」

背から聞こえるラムの声を黙殺し、草薙は法撃がとんできた場所を見据える。

向こう側には、今草薙が奇襲を叩きつぶした者と同じ格好をした多数の異相の者達がいた。

「テロでもなんでもそうだがよ……俺は無関係の奴を巻き込むってのが気にくわん」
そこの最前線に立つ、魔撃の射手、黒服に身を包んだ男を草薙はにらみつける。
ゆっくりと土を踏む音が聞こえる。
そこに表れたのは黒服の男だった。
「ありえねぇなぁ……あんた……あいつの奇襲をぶっ潰したばかりか、今の法撃までふせぐたあぁ……いや……」
黒服の男は頬に手をあてて黙考する。
「あんたの乱痴気騒ぎはもしかして……こりゃ一本とられやしたかね」

「わりい。なにいってっかわかんねぇ。俺は乳揉みが好きなだけだ」
「へへ、じゃあそういう事にしときまさあな」

奇異な様相だった。そして後ろからザッザッと兵達が表れる。
「新しい……」
「敵、どすかえ?」
表れたのは異相の法兵達。
率いているのはグロバシオではないだろう。今ここにいるグロバシオの人間は草薙が全員倒した。新たに表れたのは
だが、黒服の男は法兵達と見比べても異質な様相である。

(やっと残りがいぶりだせたか……少し遅かったな)

だが、黒服の男のようなの者が残っていたのは意外ではあった。

「あんたは風守の者ってわけですかい?」

「残念ながら只の無職でな。金も友達もないんだ」

「へへっ堂々と言ってくれるじゃねぇか旦那。そこのツインテールの嬢ちゃん。あんたはどうだい」
「……ッ違うわよこんな奴っ」

ラムが否定した。先ほどと異なり、声に出す。

「関係者に見えたのか?」
草薙は黒服の男に笑いかける。
「いぃやぁ見えねぇ……そうは見えなかったなぁ……あんたが姉ちゃん方の乳を揉んで
やりたい放題やって。その嬢ちゃんにぶん殴られてたってとこが見えたが」
「なるほど」

攻撃のタイミングといい、ある程度こちらの事は見ていたのだろう。

「……あんたは危険そうだってのはわかるぜぇ」
男の顔に険が浮かんだ。
しばしの黙考の後、男はやや曲がった口を開いた。

「風守の人間は後回しだ。今はこの男から先に処理する」
男の指示と共に、法兵達が陣を展開する。
「良い判断だ」
法兵達の判断を草薙は心から肯定した。
どこまで本気かは疑わしいが、風守と自分が別個の存在であると認識した。
完璧とはほど遠いが、今の自分ではこんなものだろう。
草薙が無形の構えをとる。

「ちょっとあんた……」
「お前らはあいつらに手を出すな。面倒だからな。なんならさっきの要領で俺を攻撃してもいい」

「ッツ」

ラムから怒気が伝わってきたがそれに構ってる暇はない。

先ほどの戦い、今負った傷は重傷ではないが、この数ではわからない。

「お前達も随分あらっぽいな。相当始末に困るんじゃないのか?。」
「へへっ……旦那ぁ、そんな事ぁいわれるまでもねぇんでなぁ~~」

法兵達が静かに理を練り始める。ここまでやった以上、彼らも容赦はしないだろう。

始末に困るという言葉は嘘ではない、法兵をここまで叩きのめした自分もそうだが、彼らもまた容易に引く事はできないのだ。

「危急に乗じて派手にやるというやり方は理解できるけどな」

殺傷の法をほぼ無差別にふるった彼らもまた、簡単に退ける立場にはない。

「ここは俺がやるぜぇ」
奇妙亜な出で立ちの男が表れた。
先ほど草薙がクロスカウンターで倒した男に近い雰囲気を持っている。

異相の男達の中で、一際の鬼気を放つ男が前に進み出た。
場の熱が高まる。異相の兵達が理法を組みあげ、草薙が戦闘体勢をとる。

草薙と男が対峙する。そして――
「キケェェェェ」
怪鳥の叫びをあげ男が迫った。
恐ろしい速度で迫り来る。

(殺る)
瞬間、草薙も動く。
――だが刹那ソレはおこった。

――正真一刃

「キェ?」
それが男の最期の言葉だった。
――ズバァァン

瞬間刃がはしった。
草薙でも敵部隊からでもない。
横から薙いだ白刃の刃。
凄絶な斬撃が男を絶ちきった。
血をぶちまけ両断された男が飛び散る。

一瞬で男を絶ちきった太刀筋は音速の刃。

そしてそのまま草薙悠弥に迫りくる。
(この刃は)
知覚と同時に草薙は半身を動かす
ギリギリの所で――回避。
危機一髪、紙一重。ギリギリの所で回避する。
飛び散る血、断裂する兵士。
凄絶な斬撃に敵部隊の人間達が絶句する。
草薙もまた、息を飲んだ。
あの斬撃は避けなければ刃は草薙悠弥ごと絶ちきっていただろう。

「――止めろ」

瞬間、刀そのもののような鋭さを帯びた声が響いた。
声に心臓が射抜かれたと錯覚するほどの圧力。
「っつ!?」

場が凍り付く。
戦いに向けて緊張が高まっていた場が一瞬で止まった。
法兵達の動きが止まる。
たた一太刀で、全ての空間が停止すたようになる。

「その"無道"に貴様らは勝てん。貴様らは屑だが草薙悠弥の屑さは次元が違う」

一人の男が表れた。
その男の
空気が圧迫される感覚。

尋常な気配ではない。それは彼が圧倒的な力の持ち主である事を示していた。
彼の体から、ほとばしる理力波動。
草薙のFランクとは真逆の概念。

そして、その彼の存在感を際だたせるものがあった。

彼の腰に下げている刀。そこから気圧されるような力が漲っている。

「……正宗」
草薙は呼んだ刀の名。
13世紀の元との戦いから受け継がれた刀。
日本の敵を斬るために作られた国家を守護する刀だった。

「正真の刃……武宮……京士郎」

 

 


 

 

 


 



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