歴史の風

悠久ノ風 第2話エクストラ

第2話 歴史の風

 



「――北条時継の名において命ずる」

此処は最前線。
目の前には海が広がっている
海の彼方にあるものは――魔大国ガルディゲンだ。
故に北条は命じる。

「――この防塁を死守せよ」

彼の名は北条時継。
北条家。古から続く歴史ある日本の大家。
古来、日本に攻めてきた大陸の侵攻から日本を守った執政、北条。
その北条家の末裔だった。

「ははぁっ!!」

北条時継の命令に、彼等は一斉に応えた。
並び立つ数多の古強者。
彼等は北条の鎌倉武士団だ。
数百年の伝統と歴史を持つ精強無比の戦力。

だが精強なる北条の強者達の顔は一様に緊張の面貌を浮かべていた。
それは彼方の国から来寇する魔軍の脅威が迫っている事を意味していた。
だがそれでも、彼等には守るものがある。
それは北条の防塁だ。
外敵の上陸を止めるための防衛ラインだった。

「我ら北条の誇りを以て――」
「この命に代えても」

鎌倉武士団の強者達の表情には決意があった。
北条時継は何かを想うように海の彼方を見た。

「…時継様。行かなくて宜しいのですか」

「……あぁ行くつもりじゃ。国難の守護を祈願するのもワシの役目じゃからな」

「ここは我らにお任かせを。我らの誇りにかけて防衛線は死守してみせましょうぞ………時継様は、北条のご祈願をっ」

北条の武士は真剣に時継を見ていた。
数百年の伝統を持つ武士団の一員だからこそ、彼等は伝説を知っている。
強者の兵達もまた、大陸から数多の魔軍が攻めてくるという状況に強い危機感を感じていた。
そして同時に危機を薙ぎ払う風を求めていた。
北条に仕えるものなら誰しもが知っている。
国敵を討滅する風を――

(風、か)

北条にとってそれは重い意味を持つ。
だが――

「っ!!!」

瞬間、時継は強大な凶の気配を感じた。

「者共! 備えろっ!!」
時継が喝破するように吠えたその瞬間――

――ドゴオオオオォォン

地が震撼し、空が明滅する。

「あれはっ!!」

時継は彼方を見る。天を突き上げるほどの強い光が明滅した。
総身にはしる怖気。

(あの光は――破壊光!)

「ふせろおおおぉぉっ!!」

(……来るか……)

地が震える――

(ガルディゲン!?)

天が震える。

瞬間、破壊の衝撃波が襲った。

「ぐっおおおおぉぉぉっ!!」

魔衝撃に鎌倉武士団が薙ぎ倒される。
その衝撃に何人かが耐えきれなくなり倒れ伏す。
とても立っていられない。だが北条時継は倒れずに立つ。
そして――

「渇ァァァァァッツ!!」

檄声一喝。
時継の檄声と共に、覇気と共に吐き出された理力が形をとり防壁となった。
北条の理法防壁と魔の衝撃波が衝突。
弾ける衝撃、地を震撼させる力の波濤。
衝撃が収まった後、北条は総身に傷を負っていた。

「者共オオォ! 大事ないか!?」

時継は総身から血を吹き出しながらも声をあげた。
魔衝撃がはしった地を見回す。
何人もが倒れていた。
今の魔衝撃に倒れた者は一人二人ではない。
武士団をも襲った彼方からの魔衝撃。。
その衝撃波だけで来寇せし魔軍の規模が感じられた。

「立てるかああぁぁっ! 皆の衆!?」
それでも北条時継は気勢をあげた。武士団に呼びかける

(気概で負けるわけにはいかぬ)

前線に出た経験がなく、いかにも賢しらに語る者にはわからない。
戦略と戦術に並び、戦で大事なのは気概。士気、雄々しい心。
その心は場合によっては戦略や戦術よりも戦の趨勢を左右する。
何倍もの軍勢が相手でも覆しえるものと北条は解悟していた。

倒れた武士団の人間も、よろめきながらも立ち上がる。

「鎌倉法武団よ! ヌシらは戦えるかああぁっつ!?」

北条は気勢をあげる。自身の総身にかかった負荷は並のものではない。

「北条様……!!」
「時継様!!」

北条の兵達が時継を見上げる。

(だが、負けられぬ)

北条時継は惨状を見回し、唇を噛みしめた。
政治の枢要を握る北条はこの規模の力を知っている。
兵器でもない、人間でもない。そして只の魔族ではない。
北条時継は気勢をあげながらも、ガルディゲンの規模を冷静に分析していた。

(やはり放たれたか。魔大国ガルディゲンの……大量破壊兵器)

すなわち、狂神クラスの魔族の出陣。

『放たれた』その衝撃だけでこれだ。
魔大国の真の力を感じざるを得ない。
人智を超えるガルディゲンの脅威。

いわば巨鳥が羽ばたいただけ。
いわば巨獣がみじろいだだけ。

つまりは余波。
その余波だけでこれほどのダメージ。
尋常な規模の力ではない。

(まさか……『王』が動いたか……だとしたら)

だとしたら、リュシオンの『セラフ』クラスでないと勝負にすらならないだろう。

「ですが……奴らの力を……」

武士団の人間が息を飲む。
その声には怯えがあった。
精強無比の強者とて圧倒的な力に畏怖を感じていた。

「うろたえるな!! たとえ外敵が十倍の戦力でも、北条は引かぬ!!!

「北条様……」

「立ち上がれ、まだ本格的な攻勢には時間がある。建て直し備えるのだ」

「はっ!!」
「ははぁっ!!?」

北条の呼びかけに、武士団が応え立ち上がる。
時継の高いカリスマ性、そして歴史に裏打ちされた迫真力があった。
北条時継、過去の元軍との戦いで何倍もの戦力を相手に戦った北条家の末裔だ。
そしてその歴史には一つの存在があった。

「時継様……」

「なんじゃ?」

家臣の一人が重々しく口を開く。

「風は……風は吹くでしょうか」

圧倒的な力を前にした武士団の人間は北条に問うた。
決意と共に彼らはここで戦う事を決意した。
そして同時に日本を救う風を信じているのだ。

「神ノ風、か」

『神ノ風』。

それは北条にとって特別な意味を持つ。

北条時継の冷静な観察眼はこの先日本を待ち受ける
運命を冷静に見ていた。

もう十三帝将は存在しない。
リュシオン、ガルディゲンの絶大な力が日本に迫っている。
既に詰み。八方ふさがりの王手詰み。覆い尽くす絶望。

だが、日本の絶望を薙ぎ払う『風』の存在を、北条の名を持つ時継は知っていた。

(ヌシはどうじゃ……草薙悠弥)。
北条時継は彼方を見た。視線の先は日本に脅威をもたらす魔大国の方向ではない。
日本を守る神社。いまは零落し力の面影もない。だが……
(だが……ヌシはまだ諦めておらぬのじゃろう……虚神)
北条時継は想う。それをおこす存在を。

――神ノ風を起こす者を。